歯周病
歯周組織検査
歯周病にかかっているかどうか、どの程度進行しているかを調べるには幾つかの方法があります。
その中で歯肉を見て触って調べる歯周組織検査はエックス線検査と並び、大変重要な検査です。
歯周組織検査で測定する項目は以下の通りです。
・歯周ポケットの深さ
・ポケット測定時の歯肉出血
・歯の動揺度
・プラーク(歯垢)付着度
歯周病の進行程度を最もよく表すものは「歯周ポケットの深さ」です。
歯周ポケットとは歯周病になった場合に生じる、歯と歯肉の境界部分の溝のことです。
正常な歯肉では歯周ポケットは存在せず、歯肉溝と呼ぶ深さ1~2mmの溝があるだけです。
歯周病になると歯周ポケットが生じ、ポケットが6mm以上になった場合は、歯周外科手術が必要となる可能性があります。
このように歯周ポケットの深さは現在までの歯周病の進行の程度を表す重要な指標となります。
歯周ポケットの深さは、歯周病の進行程度を表すことができますが、今現在歯周病が進行している最中なのか、過去のある時期に進行したのかを判別することはできません。
現在の進行状況を表す最もよい指標は「ポケット測定時の歯肉出血の有無」なのです。
この他に咬合性外傷、根分岐部病変、2次カリエス、根面カリエス、不良充填物、不良補綴物、エナメル滴等があればこれらも記録します。
歯周病とは、プラーク(細菌の塊)によって、歯茎が腫れ、歯を支える骨(歯槽骨)が溶けはじめ、歯が揺れたり、最終的には歯が抜けてしまう病気です。
初期の段階では症状がないため、気づかないうちに進行してしまいます。
日本人の成人の80%がかっている病気で、歯を失う原因の第1位となっています。
歯周病予防や治療の基本は歯周病菌の原因となっているプラーク(歯垢)を取り除くこと、つまりプラークコントロール(ブラッシング)と歯石の除去(スケーリング)です。
歯周病治療の90%はご自身でのプラークコントロールだと考えてください。
プラークコントロールとは、歯ブラシやデンタルフロスなどを使ってプラーク(歯垢)を付けないようにコントロールすることです。
プラークコントロールを完璧に行うことができれば治療の90%は終了です。
なぜなら歯周病の原因であるプラークは毎日お口の中に発生し、それを毎日取り続けなくては歯周病は改善しないからです。
いくら高価な治療や痛い治療をしても毎日のプラークコントロールができなければ歯周病はいずれ進行します。
そのため、当院ではブラッシング指導を大切にしております。「またか、前にも聞いたことがあるぞ」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、歯周病治療や予防のために最も大切なことだとお考え下さい。
プラークコントロールの効果
プラークコントロールを実践するとまず歯茎からの出血が驚くほど減ります。また歯茎の腫れや口臭も激減します。なぜならお口の中の細菌の80%は歯の周りに付いているプラークの中にいるからです。歯茎が引き締まると歯周ポケットが減り、細菌が隠れる場所もなくなるため、ますますお口の中が改善していきます。
歯垢と歯石の除去(スケーリング)
歯石は、毎日歯が脱灰と再石灰化を繰り返す中で、誰にでもできてしまう、石のようなものです。下の前歯の裏側をチェックしていただくと、歯石がついているかどうかがわかりやすいと思います。
歯石は、ご自身での歯磨きではとることができません。
ご来院いただき、超音波の振動を与えながら歯石を粉砕して除去する必要があります。歯茎の上の柔らかい歯石は比較的簡単に取ることができます。
しかし、ブラッシングが不十分で歯茎が腫れている方、歯周病が進んでいる方の中には、「歯石取りは痛くていやだ、たくさん血が出た、終わったあと歯がしみるようになった、二度といきたくない」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
歯茎に炎症がある状態では、より痛みを感じやすいですし、歯茎が下がって歯の根っこが露出している方は痛みを感じやすいと思います。
痛みが強い場合には歯科衛生士にお知らせください。
また、歯石は時間が経つと、歯にこびりつき、固くなり、歯石の量も増え、歯茎の中にまで入り込んでしまいます。血液を含む歯茎の中にできた黒く硬い歯石は、歯に強くこびり付いています。この、歯周ポケットの中の歯石は特に歯周病の原因となるものです。
この深い部分の歯石を除去するには、麻酔をして、超音波の振動や歯石を取る細い器具を使ってとる必要があります。これをSRPといいます。
そうなると、歯石除去にも時間と回数がかかりますし、痛みの原因にもなります。
歯石は溜め込まず、最低でも半年に1回のご来院をおすすめいたします。
歯肉炎や軽度の歯周炎(歯周ポケット3mm以下)の段階では、プラークコントロールとスケーリング(歯垢と歯石の除去)で進行を抑えることができるのです。
残念ながら、さらに歯周病が進行した場合には、その進行状態に応じた治療が必要となります。
当院では、中程度以上に進行した歯周病の患者様に対しては、歯周外科治療を行っております。
中程度の歯周病になると、スケーリングやSRPでは器具が届かず、完全には歯垢と歯石を取り切れないため、外科治療が必要となるのです。
重度の歯周病では、それ以上骨を失わないためにも抜歯が必要な場合があります。
歯周病は、痛くなってからでは手遅れです。痛くなる前に、的確な検査と治療、そして予防を行いましょう。
また、治療後はご自宅でしっかりとブラッシングを行い、当院で定期的にPMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トウース・クリーニング)を受けることが大切です。
あまり知られていない事ですが、歯周病はお口の中だけではなく、全身疾患との関連性も指摘されています。
関連性が報告されているものとして次のものがあります。
歯周病との関連でよく取り上げられるのが、「糖尿病」「心臓病」「早産」です。
糖尿病との関連
歯周病の出す毒素により、歯周ポケットの中で炎症が起きています。炎症部位には体の反応により、炎症性物質が集まります。この炎症性物質のせいで、インスリンの働きが弱められ、糖尿病が進行しやすくなると考えられています。
糖尿病については、歯周病が悪化の一因になるだけでなく、歯周病が改善すると糖尿病が改善することもわかっています。治療により歯ぐきの炎症が治ると、炎症性物質も生じなくなり、インスリンへの影響がなくなるため、インスリンが働けるようになる、血糖値が下がるというわけです。
歯周病の治療前のヘモグロビンA1c(糖尿病の評価基準の一つ)が歯周病の治療後、約8.1→約7.8になったという分析があります。(n=1499)(Simpsonら、2015)
心臓病との関連
歯周病菌の作りだす物質が血液中に流れ動脈硬化を起こすのではないかと考えられており、心筋梗塞や狭心症を引き起こす原因となります。
心臓の血管に動脈硬化を起こした患者さんから、血管の粥腫を除去して中身を調べました。すると、重度歯周病の患者さんの場合、病原性の高い歯周病菌が検出される割合が、重度歯周病でない患者さんよりも多いことがわかりました。(Figueroら、2011)
早産・低体重児との関連
妊婦の歯周病患者さん1635人について、早産、低体重児出産のリスク(オッズ比)を調べたところ、歯周病ではない妊婦さんの約2倍になっていました。(Pitiphatら、2008)
他にも「ガン」「肺炎」「脳卒中」などとの関連性が指摘されています。
研究が進み、今や歯周病は、お口の中だけの病気ではないというのが専門家の共通認識です。
「歯周病=歯を失う」という認識ではなく「歯周病=命にかかわる場合もある」という認識の転換が必要です。